花粉の飛散量が前年の何分の一だとかで、なるほど症状も軽いです。
春は花粉症、夏は暑い、冬は寒い。四季は消去法で秋が好きです。
奇泉ありとの宣伝を受け、村外の人間にも好評を博したのは今は昔。流行れば廃るもので、いつしか訪れる客は村内の人間だけになっていた。
そんな折に起こった、村長の一人息子が許嫁と駆け落ちするという大事件は、温泉に対する村民の関心をさらに奪うものであったが、許嫁とはいえ特に好き合う様子も無かった二人の駆け落ちを、いぶかしむ声も多かった。
村民の持ち回りで行われていた温泉の管理は、上記の訳から杜撰なものとなり、熱心な姿を見せるのは、定食屋の娘である油子だけであった。
浴場にブラシをかけながら油子は、高校に進んだらカーリング部に入ろうかな、と漠然と考えるのであった。
ある時、道を歩いていると、数歩おき一定間隔で犬の糞がしてある区画があった。あまりに数が多く規則的だったので、汚いとか飼い主のマナーがというより、呪術的な意図を勘繰った。
裏庭を掘っていたら、温かい石油が出たので、温泉を開業したよ!
火気厳禁。
陸路での帰還を諦め、イカダに乗り込んだのが三ヶ月前。とうの昔に食糧は底をつき、青い鳥が頭に作った巣から採れる卵が、唯一のタンパク源となっている。
鳥たちが背中の寄生虫をついばむ痛みに、身をよじりながら、私は故郷に残してきた彼女のことを思った。明日はどこかへ辿り着けるだろうか。